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高知地方裁判所 昭和49年(わ)440号 判決 1975年1月22日

被告人 山岡一廣

昭二〇・七・一〇生 自動車運転手

主文

被告人を懲役六月に処する。

この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は細川金正、北添健一と共謀のうえ、昭和四九年三月二七日午後七時ごろから同日午後九時前ごろまでの間にわたり、高知県吾川郡吾北村字唐越の津賀才縫製工場から上流約二〇〇メートル付近の高知県知事が管理する一級河川仁淀川第一支流上八川川において、同知事の管理する川石七個(重量約二一・五トン)を窃取したものである。

(証拠の標目)(略)

(本件を窃盗と認定した理由)

一、本件類似の先例につき「地方行政庁の管理する河川の敷地内に堆積している砂利、砂、栗石は、その占有を保持するため特段の事実上の支配がなされない限り、これを地方行政庁の許可なく採取しても、窃盗罪を構成しない」旨を判示した最高裁判所の判例(昭和三二年一〇月一五日第三小法廷判決)が存するので、それによれば、本件も窃盗罪を構成しないのではないかとの疑問がないでもない。

二、しかしながら、前掲各証拠によれば、(一)高知県知事の管理する判示河川において被告人らが無許可で採取した本件川石(輝緑凝灰石、いわゆる青石として一般に高値を呼んでいるもの)は、右判例の砂利等とは異なり、その一個あたりの重量も小は約二トンから大は約五トンにも及ぶものであつて、通常の自然状態のもとでは、容易に変改移動することのない性状のものであること(二)また本件川石については、周辺の同様川石とともに、いわゆる盗石を防止する一手段として、それが県知事の管理下にあることを公示する目的のもとに、所轄の土木事務所により、赤ペンキで一目瞭然に一連の番号が付されていたこと(三)更に右土木事務所は、本件河川を含む管内管理河川における盗石等防止のため、非常勤ながら巡視員四名をも雇入れ、平生より該河川の見まわり監視にあたらせていたこと等の事実が認められる。

三、そして、これらの事実によれば、本件川石は流動性のある砂利等とは異なり、河川管理者によるその事実上の支配(占有管理)も充分可能で、現にこれについては、前記判例のいう占有保持のための特段の事実上の支配もなされていたものというべく、その支配はもとより刑法上の保護にも値するものであるから、該川石を無許可採取した被告人の本件所為を、検察官主張のとおり、窃盗罪に問凝した次第である。

(法令の適用)

刑法六〇条、二三五条、同法二五条一項、刑訴法一八一条一項但書。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 田村承三)

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